The Jam 『Carnation』 — 美しい花の名を借りた、鋭すぎる人間批評

The Jam - Carnation Music

The Jam / The Gift (1982)
3分28秒

リスニング環境

  • 音源:The Gift (Deluxe Edition) CD音源
  • ヘッドホン:FOSTEX T50RPmk3 -DEKONI BLUE-
  • アンプ:Korg Nu:Tekt HA-S アンバランス接続
  • プレイヤー:Pioneer XDP-20

はじめに

「Carnation」は1982年、The Jamの最後のアルバム『The Gift』に収録された一曲です。ポール・ウェラーが書いたこの曲は、人間の内側にある欲や恐れ、憎しみを真正面から描いたもので、The Jamの楽曲の中でも特に暗く、深く、そして忘れられない曲です。

この曲を知ったきっかけはOasisのリアム・ギャラガーがボーカルの楽曲を聴いたことがきっかけでした。Oasisの新曲かと思い情報を調べたところ、The Jamの曲だと分かりました。

すでにThe Jamの曲は何曲か聴いたことがあり、それがオリジナルを聴くきっかけになりました。

この曲を紹介しようと思った理由についてですが、おそらく多くの日本人(英語が母国語ではない方々)は曲のタイトルで大まかな曲のイメージを持ち、更に曲のメロディーで曲の雰囲気を印象付けると思います。たいていの場合はその感覚でそれほど曲の持つイメージとずれることは無いのですが、本曲に関しては印象が180度ひっくり返るほど違ったため、とても印象に残った曲の一つとなりました。

曲の構造

曲の構造は非常にシンプルで無駄がありません。派手なエフェクトや過剰なストリングスで誤魔化すことなく、メロディの美しさとポール・ウェラーの言葉をストレートに届けるための、最小限の音の配置だけで成り立っています。

ボーカルについて

ポール・ウェラーの歌い方は、感情を爆発させるよりも、感情を抑えて言葉を届けるタイプです。この曲ではその特徴がより際立っていて、まるで独り言を聞かされているような、声のトーンは落ち着いています。

演奏について

The Jamはポール・ウェラー(ボーカル・ギター)、ブルース・フォクストン(ベース)、リック・バックラー(ドラム)の三人組です。この曲では三人の演奏がそれぞれ自己主張せず、全体のムードを作ることに徹しています。

歌詞の世界観

この曲の醍醐味は世界観に尽きると感じてます。まずタイトルの「Carnation」について、日本では一般的には母の日に贈られるような愛や感謝の象徴で、ポール・ウェラーの抑揚の少ない落ち着いた歌い方、シンプルでソリッドな曲調のため、聴き始めてからしばらくは誰かに花を贈る、または誰かから花を贈られたなどのラブバラードだと思い込んでました。

ポール・ウェラーの歌詞はThe BeatlesやOasisとは違い、日本人からすると難しい英語の文言が含まれており、ふとネットの歌詞の和訳サイトでこの曲の内容を知りとても驚かされました。

日本語訳は和訳サイトや日本版のCDやレコードに同梱されているものでご自身で確認していただければと思い、ここでは詳細は書きませんが、内容は「人間のエゴや虚栄心、他者への無関心」という趣旨の、辛辣でありながらもどこか哀愁を帯びた世界観に最初は理解が追いつきませんでした。おそらく自身を含め多くの日本人が、なぜカーネーションという美しい花を題材に、これほど重く鋭いメッセージを歌うのだろう?と疑問に思うはずです。私も最初はメロディの美しさに惹かれて聴き流していましたが、曲の持つ意味を理解したとき、あえてこの表現を選んだポール・ウェラーの圧倒的な言葉のセンスに鳥肌が立ちました。

美しいメロディの裏側に、剥き出しの人間批評を仕込む……ものすごくセンスがいいですね! 彼の歌詞の書き方の非凡さが、この曲にはとてもよく出ていると思っています。

この曲の歌詞(和訳は自身の解釈です)は、人間の心の中にある暗い部分をそのまま書いたものです。「カーネーションを差し出されても、その柔らかい花びらを握りつぶしてしまうだけ」という描写は、善意や美しいものを受け取れない人間の冷たさを表しています。

そして曲の終盤、「あなたが探している人間が誰なのか知りたければ、鏡を見ればいい。なぜなら私はあなたの中の欲と恐れと憎しみそのものだから」という言葉が出てきます。これは聴き手に向けた言葉でもあり、自分自身への言葉でもある。どちらの意味にも取れるところが、この曲を単なるダーク系の曲以上のものにしていると思います。

曲の聴きどころ

この曲の聴きどころについては、他の曲とは違って曲の意味を知ったうえで聴くことだと感じてます。

実際私も最初に聴いた時からこの曲に対しての評価は180度変わってます。良いから悪いに変わったのではなく、より深く知れたことによりさらにこの曲が好きになりました。

普通に好きな曲から自身の印象に残る数曲のうちの1つに昇華した珍しい曲です。

カバー曲について

冒頭でもお伝えしましたが、この曲を知ったきっかけはOasisのリアム・ギャラガーがボーカルのカバー曲を聴いたことがきっかけでした。
1999年のThe Jamトリビュートアルバム『Fire & Skill: The Songs of the Jam』でのリアム・ギャラガーとスティーヴ・クラドックによるカバーです。

聞いた当初はOasisの新曲かと勘違いするほどリアムの声とマッチしており、そのことを知った現在でもオリジナルと共にお気に入りとなっております。YouTubeでも聞けますので聴いたことが無い方はぜひ検索してみてください。

おわりに

洋楽が好きで聴くようになって、母国語以外の歌詞のため、初めて曲を聴いた時と聞き込んだ後とでは曲に対する印象が変わることは良くありますし、それが洋楽の魅力の一つだと思ってます。

中でも本曲に関しては印象が180度変わる非常に異質な存在の曲です。

もちろん楽曲としても素晴らしく聴くだけでも十分満足できる曲ですが、歌詞や曲の意味を知る事で曲の持つ意外性によりさらに好きになる事もあるとそう実感させてくれた曲でした。

※本記事のアイキャッチ画像は、YouTube公式動画より引用しています。

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